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【『フラジャイル』16巻発売記念】アフタヌーン10月号に掲載され、大反響だった[恵 三朗/柳田絵美衣/草水 敏]特別鼎談の完全版を公開!

19/10/23

恵 三朗/柳田絵美衣/草水 敏 特別鼎談!!

『フラジャイル』シリーズ最高傑作!との呼び声も高い「未来は始まっている編」。その後編にあたる16巻が早くも10月23日に発売された。それを記念して原作・草水敏氏と漫画・恵三朗氏に加え、取材協力の臨床検査技師・柳田絵美衣氏による特別鼎談を、ここにお届けする。本鼎談は、アフタヌーン2019年10月号に掲載されたものに加筆した増補版で、「未来は始まっている編」が如何に制作されたのか、その舞台裏を語りつくしてもらった。
──柳田さんは今回のシリーズ「未来は始まっている編」をお読みになって、どのような感想を持たれましたか? 柳田

まずゲノム病理という分野を、漫画で取り上げていただけたことが嬉しいです。病理は形態学の世界で、ゲノムをどのように扱うかについては定見がまだ確立されていない時期なので。内容もがんゲノム病理の現場の描き方がリアルで、草水さんに毎回「泣きました」と感想メールを送っていました。

──本編の描写のどういった点がリアルに感じられたのでしょうか。 柳田

たとえば現状ゲノム検査をしても、判明したお薬を患者さんに処方できる割合は一割くらいしかないんです。そういった検査が治療に直結しないもどかしさとか。紀子おばあちゃんが「(薬が)効いても効かなくても私の丸儲けだね」と言いましたが、実際に自分が治るかどうかより、病気が家族に遺伝しないことがわかって、嬉しくて泣いてしまう患者さんもいます。私たちは臨床医ではないので、あくまで患者さんの姿を垣間見る程度ですが、それでも『フラジャイル』の描写はリアルに感じました。

草水

僕は昔から柳田さんのファンだったので、そう仰っていただけると嬉しいです。元々柳田さんが検査技師として専門誌で書かれていた連載や、以前いた病院でのブログを読んで、人間味のある血が通っている文章を書く人だな、と思って勝手に追いかけていたんです。でも、ある時期からブログや連載が止まってしまって、追いかけられなくなってしまった。

なんだか、聞きようによってはストーカーっぽいけれど(笑)。

草水

それでしばらく経って、遺伝子のことを『フラジャイル』で取り上げようと加藤容崇先生に会いに慶應義塾大学病院に行ったら、柳田さんが勤務されていて。ああ、これは運命だなと(笑)。

柳田さんは、慶應に来るまでに、ゲノムの技師はやられていたんですか?

柳田

いえ、まったく。それまでは病理オンリーで、切った貼った染めたと、森井くんがやっているような仕事だけで。むしろ目に見えない遺伝子なんて苦手だったんです。ゲノムについて勉強し始めたのは、ここ2、3年ですね。

草水

森井が円のことを説明する時、染色体遺伝子検査技師としては日本のトップ5と言っていますけれど、実際きちんとゲノム病理を扱える技師さんは、極端なことをいえば、たぶん日本に5、6人しかいない。柳田さんは、そのうちのひとりなんですよ。

柳田

確かに研究ではなく、臨床の現場で患者さんのためにゲノム解析を行っている技師は少ないですね。

草水

でも、そこまで来て、また病理の重要性について考えるようになったと聞いて、すごく職人っぽいなと思ったんですよ。

柳田

(笑)

ゲノム病理を経たことで景色が変わったというか、それまでの病理だけでは見えなかった、その先が見えるようになったという感じなんでしょうか。

柳田

そうですね、ゲノムの解析が進歩すれば、病理はいらなくなるのではないかとも言われているんですけれど、やはりその根本に病理がないとゲノムの解析結果も意味がない。原点に戻るというか、ゲノムの仕事をすればするほど、最終的に病理に戻ってくるという感じですね。

遺伝子異常と細胞の形態の関係性について研究する岸。柳田氏は病理検査技師として細胞染色の技術を極め、ゲノム医療に転身したが、取材時に病理の視点の重要さを力説していた。
──やっぱり円のモデルって、柳田さんなのでしょうか?

そうですね。このシリーズに入る前に、講談社漫画賞のお祝い会で草水さんから紹介されたんですけれど、その時から「いいキャラだな」と目をつけていたこともあって。今回、原作に特に外見のことは書いてなかったんですけれど、これって柳田さんでしょ、って。30センチくらい背を伸ばして、イカツクしちゃいました(笑)。

円の人となりを森井が宮崎に説明するシーン。柳田氏と同僚の間では、このポーズが一時流行ったという。次ページで森井が円のことを「染色体遺伝子検査技師としては日本でトップ5」と語るが、それはがんゲノムの分野では柳田氏にも当てはまる。
草水

正確には間違いなくモデルのひとりなんですけれど、柳田さんだけではない。僕は誰かひとりをモデルにするのが苦手なので、円の気性の激しさとか大食らいなとことか、取材した50人くらいの検査技師さんたちのうち印象に残った何人かが混ざっています。ただ柳田さんも含めて、共通しているのはみんな“生命力がある人”。生命力がある人を混ぜ合わせたら、こうなりました。

柳田さんは森井のモデルのひとりでもあるんでしたっけ?

草水

いや、森井に関しては、モデルというより担保ですね。検査技師が、どれだけの精度でどれだけの仕事をこなせるのか考える時、柳田さんの仕事ぶりをひとつの基準にしたという。

岸先生がやろうとしている研究は、いま私たちが進めていること(柳田)

それは声を大にして言いたい。森井みたいなハイスペックな検査技師なんていないって声があるけれど、むしろ、柳田さんのほうが仕事量は上だからね。

草水

うん、だって柳田さんは、検査技師の業務をこなした上で病院に残って徹夜で自主練したり、染色の教科書をほぼひとりで執筆したり、専門誌に連載していましたからね。だから「森井くらいできる人いますけど」って自信をもって答えられる。

始まっている未来と
最先端ならではの苦悩

──今回ゲノム病理を取り上げようと思ったきっかけを教えてください。 草水

ずっと前から、岸先生って20年後何をやっているんだろうと考えていたんです。病理医としては脂がのっている年代だし、たぶん医療の現場の環境も変わっているだろうと。それで色んな人に話を聞いてみると、AIが診察しているとか、それこそ生まれた時にゲノムを解析して発症率が高そうな病気の予防薬が処方されるオーダーメイド医療とか、様々な明るい未来像が出てくるんです。本当にそうなるかはわからないけど、描いた未来を作るために、いまの時点ですごく地道な研究や作業をしている人が絶対いるはずだと。そんな中で、ゲノムは未来の可能性のひとつだよな、と思って加藤先生を訪ねたら、偶然柳田さんがいて、いまはゲノム医療に携わっているという。臨床検査技師って、国の予算削減で病院から解雇されたり、いまかなり厳しい状況なんですけれど、それでも未来に向かって新しいことを始めようとしている人はいるというのを目の当たりにして……じゃあ医者は未来のためにいま何をしているんだろう? 患者は? 製薬会社は? と、パタパタパタっていろんなピースがはまっちゃった気がしたんです。

──未来への種まきの話なんですね。 草水

そうです、いろんなところに苗木を植えていく人たちの話です。自分が生きているうちに実がなるかわからないけれど、次の世代に何かを残すために植える。そんな人たちの話です。みんなが少しずつつながっているというのは『フラジャイル』の大きなテーマのひとつでもあるので、遺伝子はちょうどいいかなと。結果、いっぱいキャラクターが出てきて、恵さんが描くのが大変になったんですけれど。

でも手嶌は活躍できませんでしたね。あんなに引きで気張って出したのに、出番がないというギャグになっている(笑)。

草水

それは最後に手嶌が活躍するはずだったシーンが、丸ごと削られたからで。

いや、尺の関係で私も泣く泣く削ったんですよ。もう最近、手嶌はこのまま活躍しそうでしない不憫キャラでもいいかなと思い始めてます(笑)。確かに作山さん家の一族とかは大変だった。でも手術のシーンの方が大変なので…。あと今回はいつにも増して草水さんの勉強してる感がすごかったし、専門家相手にちゃんと会話している姿を見て「ああ、頑張ってるんだなー」と感じまして、私も頑張ろうと。

──ちなみに本編内のゲノム関係の描写は、プロの目で見て如何だったのでしょうか。 柳田

岸先生が遺伝子の変異と細胞の形態の関係性を見抜くところがありましたけれど、実際ALKという遺伝子に異常があるALK肺がんでは細胞の配列や組織の形態に特徴的な形が出てくるんです。だから岸先生がやろうとしている遺伝子の異常と病理の関係性の研究は、いままさに進めているところです。

ここ大事なところですよ。あのシーン、みんな異能力覚醒! とか思ってますからね。『ドラ●ンボール』始まったっ!って。

柳田

(笑)

草水

でも形態学は昔からこうやって進歩してきたんですよ。それこそ目視で病気を診断していた時代から、顕微鏡ができてプレパラートで細胞が見えるようになって、いまそれが遺伝子になっただけで、実質は何も変わっていない。見た目と病気の因果関係をデータベース化したのが形態学ですから。

医療関係に限らず最先端の技術の世界では、一般の人が見たら「そんなこともできるの?」ってビックリするようなことがいっぱいあるじゃないですか。だから読者にとってはファンタジーに見えるというのは、逆にこの作品でやっていることが如何に最先端か、お墨付きをいただいたようなもので。

草水

実際、最先端ですよ。紀子おばあちゃんにどんな薬を使うかだって、何人の医者に取材したことか。

『フラジャイル』は、いま読んでおかないと損だぜ、と言いたい(恵)

私、Twitterでよく『フラジャイル』は連載をリアルタイムで読んでくれ、と呼びかけているんです。本当に、いまこの時点で読んでおかないと損だぜ、って内容になっているので。このシリーズの最中にも、オプジーボに保険が適用されたじゃないですか。確か、連載ではオプジーボは保険適用外でお金がかかるというエピソードを掲載した次の月くらいに発表されたんですよ。

草水

それはもう連載当時の状況はこうでした、と思ってもらうしか、しょうがない。

うん、だから本当に『フラジャイル』は、いま出せる最先端の、もしかしたら半年経ったら古くなってしまっている情報で作られていると、あの時は実感しましたね。生ものだなあと。

草水

でも僕が原作を書いているのは、恵さんが描く大体4ヵ月前くらいなんですよね。だから、ちょうどそれくらいに臨床試験が始まって、もう少ししたら認可されるかもという薬を出すと、単行本が出るくらいには、もう現実に世に出ていたりする。

そう、だから私は原作をいただいて、ネームを起こして、原稿を作画している間、現実にすごい追いかけられている感じがする。ニュース見て「ああ~~っ」って声が出たり。

草水

取材している頃は未来の話だったんだけどなあ。本編のなかでノーベル賞を予想しているけれど、あれも多分単行本が出る頃には結果がわかります。あと難しいのは取材をした時、漫画を描いてもらっている時、連載が掲載された時、単行本になった時で薬の検証データが違ったりするんですよ。連載で掲載された時はすごく良いデータが出ていても、単行本の発売時期になると変わっていたり。だから本当はできるだけ、実際の薬品名は出したくないんです。TS1のようにある特定のがんにしか効かないのが後になってわかったり、良い薬として描いたものが実はそうでなかったということがあると、単行本が出た後は対応できないので。ただオプジーボだけは、日本人がノーベル賞を受賞した薬というのもあって、取り上げざるを得なかった。「ノーベル賞の薬って、すごいんでしょ」と闇雲に信じられても困るし。もっと言ってしまえば、何でも新しい薬のほうが良いというわけでもないんです。古い薬のほうが効果的な場合だってある。そこを描ければいいなと思って。あと、もうひとつオプジーボとは別の製薬会社の人から、編集部に電話がかかってきたらしいよ。

それはクレームか何か?

草水

いや、ウチの薬はオプジーボと違って保険が適用されますから、作中で使用できませんか?って。

──漫画のなかで使用していれば「これ、効くんでしょ」という人は必ず出てくるでしょうからね。間瀬さんみたいな人は本当にいるんですね。 草水

でも、長期生存を狙う紀子ばあさんが、次に試すとしたらその薬かもしれない。「未来は始まっている編」は、これで終わりですけれど、キャラクターたちの未来は、まだこの先も続いていきますから。

本取材は2019年7月23日に行われ、その後10月7日に2019年のノーベル生理学・医学賞は「低酸素状態における細胞の応答」をテーマに、ウィリアム・ケーリン博士、ピーター・ラトクリフ博士、グレッグ・セメンザ博士が受賞した。

楽しげに見える場面に
込められた切ない思い

──それでは本シリーズを通して、印象に残っているシーンをひとつずつ挙げていただけますでしょうか。 柳田

作山おばあちゃんの遺伝子結果を聞いた稲垣先生の「普通のことなんだ」「なのにどうして俺はくやしいんだ」という問いに、岸先生が「限界を超えたからだよ」と答えるシーンは印象に残っていますね。それまでよくわからなかったくやしいという気持ちは、自分の限界やルールの限界を超えて、それでもどうしようもなかった時に起きる感情なんだというのが、自分のなかでその台詞でしっくり来た気がします。

いい話ですね。

──恵さんは、いかがでしょうか。

柳田さんに挙げていただいたシーンがある60話って、このシリーズのかなり肝なんですよね。それで印象的なというか、個人的に好きなシーンもこの話にあって。この紀子おばあちゃんと郁の会話のシーンなんですけれど、一見二人とも同じ未来を見つめているようなんですけれど、実は郁が求めている未来と紀子おばあちゃんが望んでいる未来は微妙にすれ違っている。

──郁が求めているのは紀子おばあちゃんの完治で、紀子おばあちゃんが望んでいるのは、家族みんなの健康なんですよね。

同じようなことを言っていて、それぞれポジティブな気持ちなんだけど、まったく別の方向を見ている。こんなにお互いのことを思いやりながら、揃っていない。切ないけれど、このシーンがあったからこそ、二人に同じ方向の未来を歩ませてあげなくちゃと思わされたシーンなんですね。みんな楽しげなんですけれど、すごく泣けるシーンで……私、編集部に「この見開きだけは柱とか入れないで」ってお願いしちゃいましたからね(笑)。

1枚目は柳田氏が印象に残ったという稲垣と岸の電話のシーン。2枚目は恵氏が好きだという郁と紀子の語りのシーン。余白や構図が生み出す間と、何気ないようで鮮烈な台詞が強いコントラストを生んでいる。
──それでは草水さんの印象に残っているシーンとは? 草水

印象に残っているというか、僕は一度、人がちゃんと死ぬシーンというのを描きたかったんですよ。暴力や戦闘でパーンって首が飛んで死んだり、銃で撃たれたりとかはあっても、段々衰弱していくリアルな死に様を描く漫画っていまないじゃないですか。

あまりにタブーになってしまっている死を漫画で描きたかった(草水)

これはね、ついに来たなー、と思いました。

草水

人は死を間近にしてなぜ意識を失ったり、妄想の言葉を言うのか、周囲の言葉をどれだけ理解しているのかというのは看護ケアの世界では普通に語られていることなんですね。でも現実には、死について語ることがあまりにタブーになってしまっていて、医者も何となく察してよという風潮にある。確かに、人のリアルな死に様なんて普通は見たくないですよ。でもこのシリーズの、ここに入れれば、それはエンターテインメントとして見せることができる、読んでもらえると思った。描き手である恵さんは辛いのは承知しているんですけれど、それでも描きたかったし、実際すごくいい絵を描いてくれて、嬉しかったです。

草水氏が描きたかったというケアセンターのシーン。一時は稲垣を主役にした番外編としても構想されていたが“つながり”“未来”というテーマにふさわしいと判断して、本シリーズに挿入した。

これはね。このエピソードがないと稲垣先生も救われなかったし、展開として必要だったから……漫画で描かれることはあまりないけれど、実際には多くの人たちが経験している状況だろうから、そこはきちんと描かなくてはいけなかったというか。

──ここで久遠さんのご家族は、ごく普通に会話しているんですよね。 草水

ここは恵さんが作ったネームなんですけれど、「お父さんが明るいからよ」というのは、すごくいいなと思った。

稲垣の勤める緩和ケア科を訪ねた作山郁は、余命わずかと診断された父親に穏やかに接する久遠家の人たちと遭遇する。草水はこの場面を、未来には死も含まれることを意識しながら書いたという。

うーん……上手く話せるかわからないですけれど、久遠さんたちと同じような状況に置かれた人がいたとして、こうした医療漫画を読んで「人の生き死にをエンターテインメントにするなんて」と感じる人もいると思うんですよ。少なくとも私は、そう感じる人がいてもしようがないと思います。それでもそれを描こうと決めたのなら、自分たちにできることは、少しでもそうした人たちの気持ちに寄り添って、丁寧に描くことしかない。こう描けば読者は泣くんだろう、感動するんだろうといった作意をもって、紋切り型な悲劇を『フラジャイル』という作品で描くのは最悪なので。

──言い方は悪いですけれど、感動ポルノにはしたくないと。

そうですね、その言い方を避けたら、こんな長くなっちゃったんですけれど(笑)。少なくとも、過去やいま大変な思いをされている方に、読んだ時「軽く扱われたな」と感じられないようにはしたいと思っています。だから患者さんやご家族が着ているものや、持っているものについても「この人はこういう人だから、こういうものを身につけるんじゃないか」とか、できる限り近い目線で描くというのは大事にしています。

草水

本当にいままで漫画になかった場面だと思います。

今回に限らず生き死にを描くのは大変なんですけれどね……あのね、実は私、草水さんって正直10巻くらいで出涸らしになるんじゃないか、と思ってた(笑)。10巻のハル編が、この作品の集大成だなと感じて、描いていたんですよ。

草水

それは読者からも、単行本の1巻で、森井と癌患者のエピソードをやった時にも、散々言われた。こんなデカい話したら、もう描くことないだろうと。

連載当初、まだ2回か3回くらいしか会ってない時、草水さんは私に「僕は何でも書けますから」って言ってたんですよ。その時は申し訳ないけれど「自己肯定感高い人だな」くらいにしか思ってなかったんだけど。それから5年くらい「そんなこと言っても書けるものと書けないものはあるよな」とか実感しながら一緒にやってきて、今回の「未来は始まっている編」で、ちょっとその言葉の印象が「この人は勉強したら勉強した分、本当に何でも書けるのかもしれない」に変わった気がする(笑)。これは、いつか伝えたいとずっと思っていて。

草水

じゃあ次回は、恋愛メインのメロドラマを書きますんで。

草水さんの原作から、私が何回恋愛要素を切ってきたと思っているんですか。

柳田

(笑)

本当にその辺りのネタの好みは正反対なんですよ。たぶん、ここまで似ていない人もあまりいないと思えるくらい。

──お話を聞いていると相性が良さそうに思えますが。 草水

それは僕たちが大人だから。

年に2、3回しか会わないから、それくらいは合わせてみようかと(笑)。ただ、そこが私は気に入っているんです。ここまで似ていない人と、もう5年も漫画を続けているのが面白いなと。シリアスが得意な方とコメディが得意な方とか、得意分野が全然違うふたりで一緒に作品を作ったら、むしろ得意分野が2倍になったみたいな感じで。

──円は今後も『フラジャイル』に登場するのでしょうか。 草水

僕は、今回円の“走り屋”設定を活かせなかったのが残念なので、ぜひとも出て欲しいですね。いや原作では書いたんですよ。円が愛車の中で悩んでいるシーンとか。でも作画の段階で恵さんが……。

いや、本当にページが足りなかったんですよ。でも、いいキャラクターですからね、壮望会第一病院に意味なく愛車で乗りつけるくらいのことはして欲しい。ちなみに円って森井さんと仲いいんですかね? 柳田さんはどう思います?

柳田

どうですかね、ただ私もそうなんですけれど円って、ひとつの分野を深く掘り下げるタイプの検査技師な気がするんです。だからオールラウンドに色んなことをこなせる森井くんみたいなタイプと組ませると相性がいいんじゃないかな。

草水

最初、編集部と僕との間では、森井が慶楼に行くという話もあるかもとか話してたんだよね。

へぇーー。

草水

でも、たぶん森井は円を見れば見るほど、自分は違うところにいるという気持ちになるだろうなと。
機械の導入や遺伝子研究の発達が、臨床検査技師のこれまでやって来た、たとえば子宮がん検査みたいな仕事をどんどん侵食しているんです。そのため技師の居場所がなくなって、技術レベルがどんどん下がっていっている。でも森井は、そういう状況で臨床検査技師の技術がロストテクノロジーにならないように頑張るタイプの人というか。

わかります。そういう男です、森井は。

草水

大工でいえば伝統を守る宮大工。それに対して円は耐震構造に特化、日本で一番頑丈な家を作ります、内装なんかどうでもいいみたいな一点集中タイプ。

きっと森井くんは、円に内装は北欧調でとかムチャぶりされて、ブツブツ言いながら対応するんでしょうね。

柳田

草水さんと恵さんが組んだら得意分野が2倍になった、みたいないい関係になりそうですね(笑)。

──円が今後どう絡んでくるか楽しみです。本日はありがとうございました。

写真:神谷美寛 取材・文:倉田雅弘

柳田絵美衣

臨床検査技師(ゲノム・病理検査)
国際細胞検査士

播磨の国出身。医学検査の“職人”と呼ばれる病理検査技師となり、細胞の染色技術を極める。優れた病理検査技師に与えられる“サクラ病理技術賞”の最年少、初の女性受賞者となる。バングラデシュやブータンの病院にて日本の病理技術を伝道。2016年春、大腸癌で親友を亡くしたことをきっかけに、がんゲノム医療の道に進み、クリニカルシークエンス技術の先駆者として奮闘中。臨床検査専門の雑誌にてエッセーを連載中。講演、執筆活動も多数。国内でも有名な臨床検査技師の一人。

鼎談を終えて

柳田絵美衣

草水先生、恵先生に出会えたことは、私の技師人生の励み、宝となりました。 この先も多くの方々の命を支える技師として励みたいと思います。


草水敏(原作)

裏側を明かす珍しい機会で楽しかったです。
現在は新シリーズの取材中。
いや、これ大変だわ。近日登場、乞うご期待!


恵三朗(漫画)



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