総評

選考委員・幸村誠氏（『ヴィンランド・サガ』『プラネテス』）

四季賞の選考委員を初めて今回が3回目になりますが、今回も自分は何を描きたいのかを模索している瑞々（みずみず）しさと自分の内面を何とか漫画で表現したいという情熱を感じる作品が多くありました。きっと物書きの創作姿勢の根源が四季賞にはあるんですね。ただ、どの作品も素晴らしい部分ともう少し努力が必要な部分がそれぞれあり、甲乙つけがたかった…!!　僕は選考の際、「自分の気持ちを漫画に込めることができているか、読者に伝わるように描けているか」を特に注意して拝読しているのですが、今回大賞に選ばせて頂いた『雨の乙女』からは描き込みの量から溢れ出る情熱と「これを描かなかったら死ぬんだ！」という気迫に圧倒されました。

編集長総評

聞いた話ですが、世界中どこの国の子供もヒマになると必ず親に「どこか連れてって」とねだるそうです。今居る場所から違う所へ行く行為は人間にとって原初的で最大の娯楽なのだと思います。マンガを読む行為にはその代替的な側面があります。「読むとどこかに連れていってもらえる作品」には抜群の魅力があるのです。楽しい場所じゃなくても結構。滅多に行けない場所、地球上にはない場所、ものすごく綺麗な女性の一人暮らしの部屋等々。読書しながら行ってみたい場所は無数にあります。肝心なのは読者が本当に行った気になれるかどうかです。ディテールが大事！　今回大賞受賞の『雨の乙女』は読む者を未知の世界へ誘ってくれます。ぜひお読み下さい。