総評

選考委員・沙村広明氏（『無限の住人』『波よ聞いてくれ』）

今回の応募作はどれも完成度が高く、高いレベルでの選考でした。なかでも大賞に『ないものねだり』を推したのは、読み手への心配りが巧みだったからです。キャラの振る舞いが読者にどのぐらいストレスを与えるのか？　このバランスが絶妙で、全編を楽しめる作りでした。完成度はもちろん、熱量を評価したのが『狐の嫁入り』。丁寧な線で描かれた高密度の画面から、泥臭いまでの情熱を感じました。真面目で実直な仕事をしていて、好きですね。作品に表れる主張は、作者自身の成熟とともに深まっていくものです。今回の受賞者は若い方ばかりなので、多様な物事に触れながら、俺の世代には思いつかないような新しい視点で描いていってほしいです！

編集長総評

物語の冒頭として好もしいのは、「あ、この主人公、俺（私）より境遇キツイ」と読者が思えることです。キツイ境遇で主人公がいかに耐え、戦い、前進するか、究極そこ以外に読者の興味は湧き上がりません。自分よりキツイ境遇を何とか戦い抜こうとしている人物にのみ、読む側は共感を覚えるのです。その一方で、主人公もしくは作者が、キツさから自己憐憫に陥ると、これはダメ。作品が死にます。今回、大賞を受賞された『ないものねだり』は、リアルタイムのスクールカーストの中でイタイ目に遭う主人公の姿がユーモラスですらあり、面白がりながら「ガンバレ！」って言ってやりたくなります。是非、キツイ目に遭う主人公を応援してやってください。